ボーイズライフ

 わたしは島根県の田舎でそだちました。もう半世紀も前、わたしは小学生でした。ガスも水道もない時代です。春の田植え、秋の稲刈りの季節には、農繁期休校といい、小学校が休みになりました。子供も老人も田に出て働くのです。毎日のご飯は、かまどで藁で炊きます。夕方は、どの家からも夕餉の煙があがっていました。でも、それは子供の仕事でした。薪と違い、藁炊きの場合は、燃焼速度が非常に速いので、つねに誰かが、火の番をするのです。当時は子供は重要な家庭労働力でした。こんな程度は、大人のする仕事ではありません。藁の火がめらめら燃えるのを見ながら、半世紀前のあの子供は、燃えるかまどの前に座り込み、本に夢中になっていました。時折、藁たばをかまどにくべます。かまどの中は火が燃え盛っています。その灯りで読書に夢中でした。炎のあげる音と、燃える藁のはじけるパチバチという音が間断なくつづきます。顔は火の熱でほてっていました。することもない単調な田舎の小学生の日々でしたが、本の中には、さまざまな冒険や怪奇がありました。世界があり、宇宙がありました。空想癖だけが発達しました。もちろん、その空想の世界でわたしは抜群無敵のヒーローでした。勉強はあまりしませんでしたが、ずいぶんと本だけは読みました。貸本屋や学校の図書館ではあきたらず、市立図書館にも通いました。単純な時代の、単純な懐かしい日々です。当時の冬は、いつも家のまわりに雪が何十センチか積もっていましたが、今は1センチも積もりません。

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