人生の総量

盆前に長男と飲み、彼に自説、人の一生において幸せの総量と不幸の総量はおなじであると語った。わたしの実感でもある。

「式はイコール」である。「幸せの総量=不幸の総量」。

昔々、ある漁村に浦島太郎という母子家庭の若い漁師がいました。
ある日、海岸を歩いていると、お約束どおり子供たちが子亀をいじめていました。浦島君、かわいそうに思い、ほらおにぎりあげるから、かんべんしたりと、子亀を海にもどしました。
ある晩、海岸を歩いていると、とつぜん巨大な原子力潜水艦がドドーと浮上しました。艦橋にはあの子亀とお母さん亀がいました。「浦島さん、うちの子を助けてくれてありがとう、竜宮城に無料で招待します」とか
浦島君、特等客室に乗り込むと、原子力潜水艦は、深海深くすすみ、三万メートル海底の竜宮城のゲートをくぐります。
待っていたのは、美女軍団と信じられないほど美しい乙姫様。こんな綺麗な女性を見たのは初めての浦島君。
それから三日三晩、接待につぐ接待、酒池肉林。タコのベリーダンスのヨロいことヨロいこと。見るもの食べるもの飲むもの、初めて初めて。もちろん、乙姫様とのベッドでのくんずほぐれず、上になり下になりの大サービスもあったに決まってる。それは、もう! 貧乏漁師の浦島君の人生、大爆発。ビバー、おらの人生! 人生って最高!

でも、母子家庭でマザコンの浦島君。ふと三日もおかんを放置した事を思い出した。
そこで、なあダーリン、おかんが心配やから、ちょっと家に帰りたいけど。すぐ戻るから。
いいわよ、ダーリン。ここで乙姫様、万国共通おとぎ話定番の悪魔のお約束。ダーリン、この玉手箱を持って帰って。でも、それ開けちゃ絶対にだめよ、お約束してね。もちろんだよ、君の言う事はみな聞くよ。

ふたたび原子力潜水艦に乗り込み、故郷の漁村の海岸に着岸、いや着浜か。下船しました。
見慣れた海岸、見慣れた山並み。おかん帰ってきたで、と浦島君。いっさんに家のある場所に走って行くと、あら、ただの草の空き地。家が無い!
えー、なにこれ、どうしたん?
驚く浦島君。
家が無い! おかーん、おかーん。
家のあった場所の松が異様に太い。わけわかめ。これ、どうしたん?
村の家並みは同じだが、なにか違う。見た事のない人ばかり。親戚の家も知り合いの家も、まるで様子が違うし、住んでいる人間は、はじめて見た人ばかり。頭が狂いそうな浦島君。

そこのおっちゃん、この場所に浦島太郎の家があったはずだけど、どうなったん?
浦島太郎、ああ爺ちゃんが言ってたわ、百年前にそこにそんな母子家庭の若いもんが住んでいたが、ある晩に神隠しにあって、二度と戻らなかったとかなんとか。
百年前!
驚く浦島君。
状況のみこめず、ここでおとぎ話の定番、乙姫様との悪魔のお約束を破るわけね。ついに禁断の玉手箱を開くと、白い煙がもーくもく、あら浦島君、白髪よぼよぼの百歳くらいの年寄りになったのです。

医学生の長男に聞いた。
さてこれから得れる教訓はなにや?
うーむ、なにが言いたいの?

つまり、 彼に自説、人の一生において「幸せの総量と不幸の総量は同じ」ではないかと語った。俺の人生の経験則だがと。
「式はイコール」である。「幸せの総量=不幸の総量」。
つまり、浦島君は三日で百年分の「幸せの総量」を使い切ったのだと。イソップのアリさんとキリギリスさんも、 「幸せの総量=不幸の総量」は同量だ。キリギリスさんは、太く短く、夏にすべてを使い切り、アリさんは細く長く使った。その面積つまり「総量」は同じではないかと。

俺について言えば、花の花の花の三十代は、本の執筆で悪戦苦闘し、それ以上に生活資金で苦闘した。自分で言うのはなんだが、男前だった。しかしほとんど活用していない。
君らのママと出会い、本はあきらめて、またおむつしてる二人のチビらを大学に生かさねばと、腹を決めて路線転換、起業した。会社はある程度規模になったが、まあ離婚ね。七転八倒だ。
でもかなりの著書がある、会社はかなりの規模であり、銀行信用は抜群だ。まずは資産家と言える。だが、一人で暮らしている。

それや、これや、あれや、これや。
結論として、顧みて、
「幸せの総量=不幸の総量」 と考えていると。
ならば、何事もそれはそれで受け入れるしかないわなあ、と。

まあ、何が幸せで、何が不幸せかの定義も必要になるが。 会社を創業したころN野町のへんな医者のクリニックに肩こりかなんかで行ったが、心療内科と漢方もしてた。横で見ていると、みるからに憔悴、消沈している中年女性にその医者がおごそかに託宣するのが、 明るい気持ち、前向きな気持ちを持ちなさい、 そうすれば幸せになれます、 だとさ。
横で聞いていてコケそうになった。 バカヤロー、このオバはんを幸せにするには、三億円の宝くじを十週連続であてさせて、シャブを何本かまとめて注射するしかないだろう、 だったな。 今は昔。

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