ミック・ジャガーに敬礼する

永平寺に参禅しようかと、はじめての福井の街。冬の越前である。とにかく、魚が美味しい。ニュースを観る。

「ローリング・ストーンズ」のミック・ジャガー73歳の恋人でバレエダンサーの29歳が妊娠約3ヶ月だという。欧米紙はレジェンドが増えたとか。「彼はもう一度パパになるのが待ちきれないんだ。2人とも妊娠のニュースを冷静に受け止めているよ」とか。

73歳と29歳であるが、アンソニー・クイーンは81歳だった。ピカソは76歳だったか。インドでは96歳がいるらしい。意外と幾らでも普通にある話であるし、生物的にも十二分にあり得る。旧日興コーディアルグループの元会長72歳が30歳前後の機械メーカーの元社長秘書との間に子供をもうけたことが話題を呼んだこともある。

だが、これはミック・ジャガー73歳の手柄ではない。恋人29歳の手柄である。きわめて健康な29歳なのだろう。

45歳が妊娠の限界とされる女性の卵子に比べて、男性の精子は老化に強い。だから100歳でも元気な精子を作ることができれば、子供は不可能ではない。男性の場合は、細胞から精子になるまで3カ月間かかるが、毎日精巣で精子を作っている。精巣機能を工場にたとえるなら、工場は古くなっても作られる製品は新しい。精子がきちんと作られていれば、高齢でも可能である。

それに対し、卵子は胎児の時に全量が作られ、以降数は減リ続ける。常に生産されつづけ、射精するか、数日で尿に排出される精子は、いわば消耗品であり、殆どが誕生したばかりだが、卵子の年齢は、女性の年齢+1歳である。
卵子の数は実は女性が母親のお腹にいる胎児のときにピークを迎え、生まれた瞬間にすでに胎内に原始卵子をもって生まれており、生まれたときには早くも約200万個に減少。その後、平均50歳前後の閉経年齢まで減り続けていく。さらに加齢により、その卵子は老化をつづける。20代後半から、卵子は急速に衰え始め、20歳前後の女性が避妊しないで排卵日の2日前に性交渉を持った場合の妊娠率は60%だが、30代後半の女性だと30%になるというように、妊娠率が加齢と共に低下する。江戸の子づくりを目的とした大奥の30歳での「おしとね下がり」も、理由のあることだ。そして、卵子の数も矢弾つきて閉経にいたる。その後の美魔女がどうしたは、おばさんの妄想でしかない。

ミック・ジャガー73歳の恋人29歳は、バレエダンサーらしいが、きわめて健康な卵子の所有主なのである。男であるミック・ジャガー73歳は、生殖に関して、なんの問題もない。彼は、濡れ落ち葉にならず、なにごとも継続は力なり、を実践している。亡くなった前妻もスーパー・モデルだったらしいが、彼自身の工場を稼働させつづけている。ここが男の核心。つまり健康な卵子と健康な精子の受胎であり、ポイントはミック・ジャガー73歳の年齢ではなく、恋人の年齢である。男はどうでもよい。男が廃用症候群にならず、工場を稼働させ、生産ラインを維持していれば、どうでもよい。つまりは彼女がまだ若く、受胎可能期間に、ちゃんと受胎する力があり、受胎しただけの話である。なんの障害もない、健康な子供が産まれるだろう。

だが、理屈はそうでも、これは社会的には難しい。受胎適齢期にある若い女性は、ふつう手近な年齢の男を選ぶのであり、なかなか60歳過ぎた男が対象となることはないし、男のほうも、しがらみにまみれている。しかし例外的な男たちがいる。前述の、ミック・ジャガー、アンソニークインー、ピカソ、旧日興コーディアルグループの元会長の「なんちゃら色を好む」型の社会的パワーを持った男たちである。ミック・ジャガー73歳の恋人でバレエダンサーの29歳が、自分の妊娠を大喜びしているようだが。

数年前に『週刊文春』には警世家の中村うさぎ氏の連載があったが、そこで「エロス権力」という分析をおこなっていた。 「女は生まれつき、男に対してエロス権力を行使できる特権的立場にいる。だが、そのエロス権力は十代から二十代がピークであり、その後は年齢とともに力が減衰して、閉経して生殖能力を失う頃には、壊滅的な状況になっている。」と論じる。
「一方、男はエロス権力に対抗して経済力や社会的地位といった権力で女を支配しようとするのだが、これは若い頃よりむしろ年齢を重ねてからのほうが有利になっていくシステムなのだ。こればかりは、もう、如何ともしがたい男女の非対称性である。その代り女は若い頃に絶大な権力を持てるわけだから、これくらいの非対称性はむしろフェアとも言えるかもしれない。」と断じる。

ミック・ジャガー、アンソニー・クイーン、ピカソ、旧日興コーディアルグループの元会長、加山雄三の父の上原謙は71歳で子供をつくったのか、みな「年齢を重ねてからのほうが有利」な状況を保ち続けている男たちであり、また相手の女性は若い「エロス権力」の現役の保持者たちである。そう観れば、これは普通の話だったのだ。二つの強いパワーの結合図とみることが可能だ。勝ち組連合である。

多胡輝だったか、南博だったか、林髞だったか、人生二回結婚説というのがあった。男性が五十、六十になったら今の女房と別れて若い二十、三十の女と結婚する。若い女性は精神的にも経済的にも安定した男性から様々なことを学び、成長していけるし、男性は若い女性からいきいきとした生命力を吸収できる。そして、二十年、三十年後、その女性は老いたる夫を看取り、相続した資産で安定した生活を営み、今度は自分より二十も三十も若い男性と結婚する。男性は年上の女房から様々なことを伝授され一人前の男になる。そして二十年、三十年後、妻を看取り、今度は若い女性と結婚する・・・。これによって、日本の国力は増進するという意見だったらしい。

古女房をかかえたおやじの妄想のような説だが、ミック・ジャガー73歳の恋人でバレエダンサーの29歳は、優秀な遺伝子の子供を得れるし、夫の力で、社会的に一気にステップアップできるし、ずいぶんと良い仕事ができるだろうし、そして十分すぎる遺産が手に入るはずである。彼女のかってのボーイフレンド達が、何人たばになってもかなわないほどのレベルの生活と未来が保証される。若い元ボーイフレンド達は、所詮は海のものとも山のものともわからず、平凡で無能な人生をおくり、ほとんどはしょぼくれた老人になるだろう。しかし、彼女の目の前のオスはすでに社会的に勝ち抜き、成功し、その能力と遺伝子のレベルが保証されている。猿山のボス猿、群れを率いるボス狼である。これも若いメスの選択であり、またボス猿に選ばれた若いメスの立場でもある。賢い。太古のジャングルでの原人の女たちもそうであったように、生きる力が、直感が本能的に強い女性なのであろう。ええなあ、と福井の魚を食べ地酒を飲みながら妄想する。蟹が美味しい。タラの白子が、とても美味しい。地酒も美味しい。今年はじめての、あられも観た。外は寒い。故人は「居を移すは、気を移すなり」と言う。冬の越前は、なかなかに善い。冬の旅は、ぶらぶらと、ひとりに限る。

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