株式会社と医療サービス

Ⅰ.株式病院というもの

 医療サービスの提供主体は国、自治体、日赤、国家公務員共済組合、学校法人、社会福祉法人、医療法人、医師個人、そして社会の福利厚生を目的としての企業系病院がある。今のところ正真正銘の株式会社○○病院はない。
「医療法」の第7条に「営利を目的として、病院を開設しようとする者には許可を与えてはならない」とあり、また同54条に「配当の禁止」の2項がある。これが医師会等の株式会社参入反対派の根拠だが、この2つの条項をどう読んでも、株式会社の参入を禁止していることにはならない(賛成派)。「何が営利」かは明示されていないし、ほとんどの医院・病院は私有資産であり、その所有者は高額所得者も多い。つまり7条は、はるか昔に死文化している。親族を社員にする等、MS法人等で、さまざまな節税、営利行為、利益配当、資産保全をしているのが実際である。
 さらに54条は、反対の理由として根拠がない。医療法人には持分法の定めのある法人とない法人がある。持分法のある法人では、出資者は解散時、またか退会時に医療機関の財産を個人財産にかえることが可能なので、最後に一括配当するのと同じ仕組みになっている。そして現存する医療法人の98%が個人資産にかえることが可能な持分法のある法人。現在の、日本のほとんどすべての医療機関が決して非営利法人とはいえず、私立の医院・病院は実際において営利法人以外のなにものでもない。純粋に法的に言えば、株式病院の参入を禁止する理由は、医療法のどこにもないのである。
 医師会等の既存の既得権益層と、慣習的な行政とのなれあいの結果と見られてもやむを得ないだろう。しかし、現場においては、正しい法解釈がどうであろうと、よほどの大きな制度改革がない限り、慣習行政の中で、保健所等の窓口でそれが認められることはないだろう。

 事実、医師法第19条により医師は召集義務が課せられており、また患者を選別することも違法となるように、一面では、医療に市場原理がなじまない部分もある。また病院経営は、国民皆保険制度とかかわっており、公的保健や税金が投入されて成り立っている理由もある。もちろん、実際は、救急患者のたらい回しなど召集義務違反は日常だが、これで罰された例はない。また、株式病院への一般企業の進出努力がないのには、かならずしも収益が高くなく、場合によっては赤字化している病院経営へのリスクを計算中ということもあろう。それほど企業資源を投資するほどの部門ではないと見なされているのであろう。

 その中で、セコムおよびオリックスという2つの大資本の病院経営への関与、そのアプローチの形は、現段階において、以後、弊社が参考にすべきものとして、いささか興味深い。

Ⅱ.セコムのアプローチ

 警備大手のセコムが医療機関支援に乗り出したのは、1992年からである。東京世田谷の康和会久我山病院からである。同病院、毎年数億円の赤字を計上し、負債額は20億円に達していた。セコムは社員5名を出向させ、うち3人は理事長を含む理事に就任し、負債を引き継ぐ形で経営権を承継した。
 さらに1998年、セコムは、千葉県船橋市の破綻した倉本記念病院の土地と建物を買収した、それを貸し付けるという形で病院経営に参画したのである。前身の倉本記念病院は、98年3月に150億円の負債を抱えて倒産していた。閉鎖された病院の土地と建物をセコムが買い取り、同社と関係の深い医師が、セコムから土地、建物を賃借する形で、個人病院としての開設の許可申請をおこなった。セコムからは、医療事業部門の社員が転出し、副院長に就任、経営管理の事実上の責任者として再建にあたった。
その翌年、病院名に「セコム」を入れようとして地元医師会の反発を受ける。やむなく「セコメディク病院」という形で落ち着いた。
 以後、セコムはこのような、土地・建物のオーナーとなり、その病院開設のための不動産を貸し付けるという形で、提携病院を増やしている。
 その結果、セコムの経営支援をうけた(実質的にセコムがオーナーである)病院は、企業的な管理手法の導入や、セコムの信用力を生かした資金調達を行い、積極的な事業展開を図るところも出てきた。セコムは別会社とて病院支援、医療ソフト開発部門もつくる。セコムの支援を受けた病院の成功がここまで目立つと、既存の医療法人による病院運営の限界も、逆に見えてくるとされる。

 ただ、セコムから派遣された社員は、経営支援であり、医療にかんしては口だしせず、また経営管理も、その医療法人が主体性をもってやっているということになっている。

Ⅲ.オリックスのアプローチ

  リース会社のオリックスは、さまざまな金融商品を開発しているが、医療機関を対象とした新しいか金融サービスとして考案したのが、「診療報酬請求権譲渡付き融資」である。医療機関が支払い基金や国保連合会に対して持つ「診療報酬請求権」の譲渡と引き換えに、オリックスが融資を実行するという直接貸し付けである。
同社が先鞭をつけたことで、現在は市中銀行などの金融機関も、診療報酬の請求権譲渡方式を行うようになった。

 資金力・担保力のない新規開業者、既存医療機関に対する金融サービスであり、支払い機関からの診療報酬は、そのファクタリング会社の口座に振り込まれる。そこより、医療機関は必要な資金を受け取るという形になる。

現在の医療機関は、法制度に守られたためでもあるが、所有=運営が一体化されている古い形となっている。公的病院以外は、医院も病院も、おおむね院長すなわちオーナーの所有であり、オーナーが院長であり、一族が社員扱いで給与等をうける。またMS法人を設立し、最大限の節税と、配当を受けようとする。実際的にも精神的にも、それは家の私有財産であり、とうぜんに、その利権を子供に承継させようとする。しかし、すでに現在の東京では、100床以下の中小病院は、ただちに廃院すべきであり、傷の深くならないうちに廃院は早ければ早いほどよいとさえ言われる。

 セコムとオリックスのアプローチ。その一方で、病院の土地建物その他をファンドに売却し、そのサブリースを受けることで、持ち主から賃借人になり、その際に資金を取得する。それを原資として、新しい形の病院経営に乗り出す病院もある。ファンドを組成する信託銀行もある。大阪の幾つかの大病院でも、そのような動きがある。所有と運営の「分離」という流れである。さらに、直接医療以外は、徹底したアウトソーシング等による経営の効率化である。

 ホーム事業者が、このようなことをなぜ考えねなければならないのか。
 これからは、さらに高齢化の進む時代である。3人に1人の世界。そこにおいてホーム事業者である弊社は、もはや医療と介護が一体化しないと、ホームの現場は立ち行かないと実感的に認識している。弊社ホーム事業に、主体的に医療組織を取り込むことで、シームレスにすること、それにより安定して、これからの高齢化社会に貢献したいと考えつづけている。その方法を考えつづけてるいるのである。

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