漁父の利ですね

アメリカの空母二隻が日本近海に出動とか。尖閣列島をめぐり、安保条約が発動されるか日本で論議されている時期だが、さすがアメリカ。芸がじつに細かい。CIAの国だ。グローバル戦略が明確だ。これは、日本を安心させる目的であろう。事実、新聞・雑誌の論調は、うしろにアメリカが居るぞと、となったようだ。日中戦わばという馬鹿な特集をしている雑誌もある。安保条約が発動されるかとか、論議自体がお馬鹿である。

趙 且に燕を伐たんとす。
蘇代 燕のために恵王に謂ひて曰く、
今者 臣の来たるとき、易水を過ぐ。
蚌 方に出でて曝す。
而して鷸 其の肉を勞む。
蚌 合して其の喙を箝む。
鷸曰はく、「今日 雨ふらず、明日 雨ふらずんば、即ち死蚌 有らん。」と。
蚌も亦 鷸に謂ひて曰はく、「今日 出でず、明日 出でずんば、即ち死鷸 有らん。」と。
両者 相舎つるを肯んぜず。
漁者 得て之を媚せ擒ふ。
今 趙且に燕を伐たんとす。燕趙久しくあひ攻むれば、
もって大衆を敞れしめん。臣、彊秦の漁父とならんことを恐るるなり。
願はくは王これを熟計せよと。
恵王曰はく善しと。乃ち止む。

これは「戦国策」である。

かつての清朝は世界に冠たる中華帝国であり、清朝のGDPは世界の30%(当時)を占めていたといわれる。その自信の上に立っていた清朝はアヘン戦争で英国に負けたが、それは中国人にとって「驚天動地」だった。その後の100年間はまさに苦渋に満ちた、半植民地状態の歴史であった。その中で中国人が学んだことは、力がなければやられる、力がすべてだという教訓であったとか。
中国が、なにごとにつけ、なぜかくも強面に対外的に乗り出してくるのかを理解するには、こうした屈辱感をリバウンドした優越感の背景、DNA化した感情記憶を踏まえて中国の行動を見る必要があるのだろう。

安保条約は、第二次大戦の戦勝国であるアメリカが、軍事力で征服した日本において、軍事基地を以後も占有し、日本がアメリカ軍事力の支配下にあることを目的とした条約であろう。べつに他国を守るためのアメリカの軍事サービスであろうはずがない。あくまで、対共産主義の前線として、かってはソ連だったが、今は中国に対抗する前線の確保、防波堤の維持のためであろう。現地勢力をアメリカの従属下におき、軍事的育成をはかり、共産主義と対抗させようとしたのは、トールマン・ドクトリンとでも呼ぶべきだろうか。自衛隊の育成であり、韓国軍、台湾軍の育成であり、失敗したが南ベトナム軍の育成である。古典漢文式では、夷をもって夷を制すと表現される。

今回、アメリカの空母二隻が西太平洋に出動したのは、これは一種のリップサービス。日本世論誘導のためであろう。アメリカには、よいシナリオ・ライターがいるものだ。日中のほどよい衝突は、アメリカの利益、漁父の利となる。今の日中の領土紛争は、じつにアメリカにとって理想的な東アジアの状態としか思えない。両者の消耗を、高みの見物を決め込めばよいのである。中国の消耗と、日本の消耗および対米依存の強化となるからである。かって、北方四島問題でも、二島引渡しで日ソが妥結しかかった時に、アメリカは、ならば沖縄は返還しないと強力に干渉して、交渉を破綻させたとか。米ソ対立の中で、日ソの友好より、両国の対立・敵対関係こそアメリカの利益となる。以後、北方領土問題は、アメリカのシナリオのとおり、日ソ、日ロの大きな障害となった。この図式は、今回の尖閣列島をめぐる日中のケースにも、とうぜんに当てはまる。日本は、アメリカの経済戦争のライバルである。中国市場においても、とうぜんに競合関係にある。そして間違いなくアメリカの「仮想敵国」の一つである中国と日本が争ってくれるのは、利益である。日本はさらに、依存してくるだろう。また経済的にも、中国市場から日本企業が排除される状況を、日本以外の国は、みな喜んでいるだろう。アメリカ企業も、よいビジネスチャンスと笑っているだろう。雑誌の書くように、チャイナ・リスクだとして、以後外国資本が中国から逃避するなど、ありえない。手を叩いて笑っているはずだ。日本の最大の貿易相手国である中国で、日本車は以後売れず、ドイツ・アメリカ・韓国車が大幅に売れ増しているそうだ。

安保条約などと、夢物語である。空母二隻は、日本向けの、ジェスチャーでしかないだろう。米中ともに大陸間弾道弾と核兵器を持つ。戦略核をもつ国同士が争うことは、絶対にありえない。かっての米ソもそうであった。それは誰にもできない。核保有国同士の戦争は、絶対に不可能なのだ。必ず抑止しあうのだ。アメリカの利益の一切ない無人島のために、中国と核ミサイルを打ち合うという選択肢など、アメリカに、あるはずもない。核保有国同士で、限定戦争とか局地戦も、あるはずもない。尖閣列島での軍事衝突で、アメリカが出動して、日本を軍事的に支援するなど、考えるほうがおかしい。それよりも、両国が争うことで、消耗しあうことで、笑いながら漁父の利を座ったまま得られるのである。この快楽な状況が、いつまでも続けばよいと考えて普通である。

核拡散防止条約が認める核保有5カ国の核戦力を比較してみるとアメリカ、ロシア、中国だけが、ミサイル、潜水艦、航空機などの運搬手段を持っている。中国は、アメリカ西岸まで到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM;DF-5、DF-31)を保有している。そのDF-31は、固形燃料によるミサイルで、8輪の巨大なトレーラーに搭載して地上を移動できるミサイルだとか。ゆえにアメリカの先制攻撃に対しても生き延びる可能性のあるミサイルであり、米国に対する抑止力の構築につながっているとされる。 日中が交戦しても、アメリカが参戦するなど、絶対にありえない。安保条約においても、その戦争の発動には、議会の承認がいるのである。アメリカの利益の一切ない他国同士の小島の紛争で、アメリカ議会が核戦争の危険を承認するなど、決してありえない。

中国は、将来の局地戦の多発地域は沿海地域、島嶼・海上であると考え、第一列島線内の南シナ海と東シナ海の防御を「近海防御戦略」と呼ぶとか。日本列島、南西諸島、台湾までの線は、ちょうど中国が太平洋に出ることをさえぎっているような地勢的特色を有している。西太平洋に進出したがる中国との間で、とくに南西諸島付近でさまざまな摩擦を起こしているわけだ。
近海防御構想は、海上多層縦深防御の態勢で対応しようとしており、第1層海区(150海里まで)をミサイル艇、砲艇、沿岸の対艦ミサイル部隊によって、第2層海区(300海里まで)を多用途護衛艦、ミサイルフリゲート艦によって、第3層海区(朝鮮海峡・東シナ海・南シナ海)を潜水艦、爆撃機、ミサイルによって、それぞれ防衛するというものだ。
グアム島は、米軍再編の過程でアジア拠点の中核的な基地となりつつある中で、そこと接する第二列島線が中国にとって意味を持つようになってきたとか。これまでの中国の近海防御戦略は、第一列島線までをしっかりと保持すれば海からの攻撃に対して安泰だと考えていた。しかし、その先の沖合いから米軍の精密誘導兵器の攻撃が行なわれれば、もう少しバッファー・ゾーンを拡大する必要性を感じて、中国海軍力の強化を図ることになったとか。その結果、中国海軍は第一列島線を越えて、第二列島線までを視野に入れた展開になってきた。つまり、中国海軍は、近海防御戦略により近海海軍から外洋海軍に脱皮しつつあるのであるとか。そこで空母の精神的必要性も生じたのだろう。
この海上多層縦深防御の中には、台湾も尖閣列島も含まれる。アヘン戦争以来、屈辱の歴史を強いられた中国では、とくに「海防」が重要視されるとか。アメリカのマハンの「海上権力史論」のような「米国が必要とするのは巡洋艦の寄せ集めではない。いかなる国の海軍にも負けない強力な戦艦群の大海軍である。米国のシーパワーの強化が通商の拡大と米国の繁栄を導く」と考える海洋勢力に対し、大陸パワーである中国は、「海防」の思想である。そして国力の充実が、第一列島線から第二列島線と拡大したが、基本は、アメリカのような海軍力が政治力・経済力・国際市場の確保に直結するという発想ではなく、あくまでアヘン戦争以来のDNAであろう。防御である。「孫子」である。地政学的な、海洋勢力の侵攻と大陸勢力の防御である。

このような中国軍の動きをアメリカの視点で見ると、QDR(4年毎の防衛政策見直し)の中には「中国の軍事戦略」と直接的な表現を避けて、アンティ・アクセス/アンティ・ディナイアル戦略(接近/領域拒否戦略Anti-Access/ Anti-Denial / Area-Denial Strategy;中国の沿岸への米軍の接近を拒否する防衛戦略)と表現しているとか。

日本の国境問題については、孫崎亨氏という元外務省局長が、さまざまな著述で意見をのべている。おそらく、氏の意見・見識が、もっとも正しかろう。だが日本のマスコミも政党も、これを無視し、ナショナリズムをあおりつづけるのだろう。日本の閉塞された状況の中で、なにかお祭りのように騒ぎ立てたいのだろう。日本版「愛国無罪」である。しかし、それの持つ歴史的リスクと、国益の損失について、誰も考えようとしないのは、これは漂流船かとあきれる。孫崎亨氏の、最近のいそぎの著書発行等は、元外交官として、現状への危機意識、無知なままの暴走への危惧のためのような印象をうける。

日清戦争の最中に、とつぜんに台湾沿岸に無人島を発見して、沖縄県に編入したという論理を、アメリカが果たしてどう考えているか。まずは教えてくれないだろう。ただ、この島での衝突で安保条約が発動されないのは確かである。はじめからアメリカから梯子をはずされているのだ。これは孫崎亨氏の述べるとおりであろう。しかし、どちらも愛国無罪の国である。黄色いハマグリと黄色い鳥の抗争を青い目の漁父はのんびり眺めて、両者が疲れきった時に捕らえて、どちらも美味しく頂きましたという極東版グリム童話になるだろう。インターネットで、林子平の地図を検索すれば、そこに答えはあるのだが。中国が、この問題で決して引くはずはないことも解かる。

それから、中学生諸君。とくに一年生。
ひとつ教えておくが、漁夫(ぎょふ)の利ではない。漁父(ぎょほ)の利だよ。漁夫は、これは漁師さん。魚をとる労働者。漁父は、釣りが趣味の旦那さんのことだよ。

それから高校一年生。
歴史を勉強しろ。重要な教養であり、必須だ。たとえば、悪用だが、東アジア史にある程度の理解がある株式投資家ならば、無知な都知事、議員、マスコミが騒ぎ立てた時に、中国進出企業の株を「空売り」したはずだ。領土問題では、必ずこうなるのは、わかりきった話だからだ。ある会社の株は5月から37%株価が暴落した。仮に1000万円手元にあるとして、じつはその3倍の額の株をかうことができるから、5月から9月末までの5ヶ月間で、5月に売り、9月に買えば、1110万円が儲かる、こんなことも現実に起こるだ。夏休みのはじめに、尖閣列島問題を調べてみろ、と言ったろ。海外の投資家は日本から金を引き上げようとしており、外資のファンドは、日本株に対して空売りをさかんに仕掛けはじめているそうだ。あほでも、かしこでも、タレントでも二世三世でも、チルドレンでもベイビーズでも、歴史を知らない人が一発勝負の選挙だけで議員、政治家を称せるようになる(これを民主主義というが)と、こういう衆愚な結果が起こるということだ。7月7日は、なんの日か。この日に国有化宣言とは。盧溝橋事件の日だ。

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