扁桃体至上主義 その4

扁桃体の役割は、情動反応の処理と短期的記憶において主要な役割を持ち、情動・感情の処理(好悪、快不快を起こす)、直観力、恐怖、記憶形成、痛み、ストレス反応、特に不安や 緊張、恐怖反応において重要な役割も担っている。味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚など外的な刺激を嗅球や脳幹から直接的に受けとる。また、視床核(視覚、聴覚など)を介して間接的に受け、大脳皮質で処理された情報および海馬からも受け取る。この偏桃体は、側頭連合野(前方部)、眼窩前頭皮質、海馬、帯状回と相互的に結合が密接である。

扁桃体は、海馬からの視覚、味覚などの記憶情報を、それが快か不快か(好き嫌い)を判断する。何かの行動が快不快感情を生んで、その情報を海馬へと送るというように、海馬と扁桃体は常に情報が行き来する。この行き来に関しては海馬傍回がその中間として働いている。
情動(感情)に関連した回路としてヤコブレフ回路が知られている。扁桃体 → 視床背内側核 → 前頭葉眼窩皮質後方 → 側頭葉前方 → 扁桃体という閉鎖回路をYakovlevの回路または基底・外側回路と言う。

扁桃体は、五感を通して脳に入った情報に対しての情動反応を処理しているが、危機等の環境変化に素早く反応するために、味覚、嗅覚、内臓感覚、聴覚、視覚、体性感覚などあらゆる種類の刺激が皮質感覚野を経過せずに、脳幹レベルから直接的に(または、間脳の視床核を介して間接的に)入ってくる。環境からの情報をそのままに受容する生(なま)の感覚である。

その他に、大脳皮質を経由していわば高次元で処理され、知覚され、認知された結果が扁桃体に入ってくるものがある。この入力系はその伝達経路の故に必然的に、時間的に僅かに遅れて伝達されるが、そのことによって、適正かつ精密な情報として入ってくる。
これらの粗と精、原始的と識別的、低次と高次という2種の情報が扁桃核内で遭着する。このことにより、環境に対して瞬間的、反射的に反応した生得的な生体反応は、成体の思慮深い知恵により、快か不快か、有益か有害かの判断に基づいて環境適応的に補正・修正される。

神経結合は、扁桃体から視床下部に対しては交感神経系の重要な活性化信号を、視床網様体核に対しては反射亢進の信号を、三叉神経と顔面神経には恐怖の表情表現の信号を、腹側被蓋野、青斑核と外背側被蓋核にはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの放出の信号を出すとされる。

つまり扁桃体は、危険や恐怖を呼び起こす対象(外敵)や(嬉しい)獲物や愛くるしい対象に対して素早く反応する。そして、この反応は「右脳の扁桃体」のみに生じている。このことは、生物の進化の過程で右脳は予想外の環境の変化(危機や仲間の認識)に対して反応する役割を担っていると考えられる。

「一目惚れ」はこの扁桃体の作用であり、対象に対する情報はなくても扁桃体に蓄えられた情動・感覚情報と対象が合致することから、瞬間に情動判断するようである。アメリカでは離婚率が50%に達するらしいが、この「直感」、つまり扁桃体判断による「一目惚れ」では、10%程度だそうである。

逆に、うつ病発症のメカニズムとして、強い不安や恐怖、緊張が長く続くと扁桃体が過剰に働きストレスホルモンが分泌され長く続く事により神経細胞が萎縮して他の脳神経細胞との情報伝達に影響し“うつ病” 症状が発現すると考えられている。痛みやストレス状態になると扁桃体が興奮する。「前頭前野は扁桃体の興奮を鎮める」が、痛みストレスが継続的に起こる場合は、扁桃体が興奮しっぱなしとなると痛みが増幅され血圧上昇、不眠となる。視床下部で合成され下垂体からオキシトシンが分泌されれば扁桃体の興奮を鎮静化できる。 うつ病になると海馬が委縮する。

また、扁桃体は海馬と違い、時間軸での記憶ではなく感情の記憶だけにとどまる。そのため、今起きていることと、過去に起きたこととが扁桃体だけでは分からない。そのため、いきなりトラウマ体験を鮮明に思い出し、あたかも今、当時のトラウマ的できごとが起きているかのような反応を自律神経がしてしまう。これはフラッシュバックといわれる現象で、海馬の萎縮や扁桃体の異常な興奮が原因である。

篠浦伸禎氏は『脳と瞑想』等において自らの覚醒下脳手術、脳の切除手術の結果から、
①自己意識は「帯状回」の作用である。帯状回に腫瘍のある患者が自己意識を喪失した。
②扁桃体には左右で機能が違う。
③左の扁桃体は攻撃、右の扁桃体は逃避と関係する。

脳機能には法則がある!
例:自律神経失調では右前頭葉の血管反応が 異常になる。覚醒下手術では、脳を手術で触り 機能が落ちたとき、右脳では眠くなり(逃避)、 左脳では不機嫌になる(攻撃する=接近)傾向 がある。 ストレスがあると、右脳は逃避、左脳は攻撃 する傾向があるのではないか
例:覚醒下手術で左の扁桃体に近づくにつれ攻撃的な言動をしていたのが 摘出したとたんにおとなしくなった。右の扁桃体に近づくにつれて、眠けが強くなり、症状のチェックができなくなった。
左脳:言語、論理;過去未来を扱い、「質」 「進歩」に関わる。人や物の境界をつくり 物事をはっきりさせる。戦いに強い。
右脳:感性、芸術、空間の認識;現在を扱 い、「量(エネルギー)」「調和」に関わる。 境界をなくし、一体化する。幸福感あり。左脳の障害ー失語症。 右脳の障害ー注意力が落ちる。 人間の性格、才能と関係する。
つまり篠浦伸禎氏は、覚醒下脳手術の結果より、扁桃体は左右で役割が違うとする。いわゆる左脳と右脳の機能の分離と、左右扁桃体の機能は同調しているらしい。すると、ここで性格が生じるのか。
何万年前のジャングルで、われわれの遠い祖先は、見知らぬ生物に対して、攻撃か逃亡かを瞬時に決定せねばならなかった。そこでは、左扁桃体優位の攻撃型と右扁桃体優位の逃亡型があったのかも知れない。

そして最新のうつ病の研究では、偏桃体の異常な興奮などに原因があり、それを抑制し沈静化させのは、「前頭葉前野」の働きだという事らしい。思えば、うつ病の症状は、じつに「右扁桃体」の逃避行動そのものである。

以上の流れにより、わたしは前頭葉(理性判断)・右扁桃体(逃亡)・左扁桃体(攻撃)という思考実験的モジュールを抽出した。自我意識は「帯状回」での働き、「左扁桃体」と「右扁桃体」は、一見、攻撃と逃亡という相反する役割、作用をする。また「扁桃体」の暴走を鎮めるのは「前頭葉前野」となる。さて、これからがわたしの料理の時間、屁理屈の時間である。

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