大阪市信用金庫がこの7月、消費税率引き上げ関するアンケート調査を取引先中小企業を対象に実施した。引き上げは「やむを得ない」とする回答が全体の57%と、不安は強いものの、国の財政再建への意識が見られたとか。逆に引き上げるべきではないは43%。増税で景気に悪影響があるは78%と圧倒的に多く、とくに小売業では85%に達した。長引くデフレで価格引下げに迫られてきた中小企業にとって、増税分を価格に転嫁できるかは大きな問題だが、転嫁しきれないと考える企業が81%を占めたとか。
わが社は、市信金とは取引がない。だが、もし市信金からアンケートが来たら、どう答えたらよいのだろうか?
一般論だが、わが社は介護保険という制度に依存している仕事である。そのために、制度の持続性がつねに気にかかる。財政破綻により制度が崩れるのを恐れるのは当然の心理である。月初のレセプトを国民保険連合会に出すのだが、これは病院も薬局も同様である。そして病院が診療報酬の減額で、薬局が薬価の減額で苦しんでいるのは承知している。介護保険事業者も、同様に厚生労働省のさじ加減ひとつの世界で仕事をしている。そしてこのような社会保障費用が財政の大きな負担になっているのも承知している。
であるから、税率の引き上げが、日本経済の持続的な成長と財政健全化をもたらすなら、全事業者が増税の負担を背負う価値もあるというものだろう。問題は、その実現可能性である。
前回の増税は1997年。だが2%引き上げられると、日本経済は深刻な不況に陥り、小売売上高が落ち込んだ。今もその不況から抜け出せていないと考えられている。増税で財政赤字を埋めることができなかったばかりか、政府の税収は96年の50兆円から昨年の36兆円に急減した。日本は、90年代末から景気刺激策から遠ざかった。その後の10年間で、対GDP比の公共事業支出は6%から3%に下がり、金融引締め策がつづけられ、円は急騰し、10年物国債利回りは1%を切り、ゼロ金利政策が導入。デフレが確定した。前回増税で得たのは、減少しつづける名目GDP、税基盤の縮小、国債発行残高の急増ということになるのだろう。
さて、アンケートにどう答えたらよいのだろう? 財政再建か経済拡張かの二択ではなく、すでに増税路線が決定されたわけだが、その結果は? 介護保険の持続性も、その結果にかかわる部分が多いと思われるだけに、悩ましい。私的な予想としては、前回増税時と同様な結果ではないだろうか。歴史は繰り返す。政治と経済の両面で惨憺たる結果をもたらす可能性が高いように印象する。介護事業者も、真剣に財政問題を考えねばならないから大変である。長期スパンで思考せねば。ホーム新設に関する銀行借り入れが恐ろしい。介護保険制度の安定と財政の安定は同義語なのだ。
私見では、増税よりも、規制緩和・法人税減税などの上げ潮政策が正しいような気がする。高橋是清ではないが、芸者の帯にも意味があるのだ。世間に金が元気よく回るようにするのだ。そのほうが税収が逆にずっと増えるような気がする。その一手のような気がするが、やむを得ない。そこにリスクがあるのなら、そのリスクを見極め、それをどう長期にヘッジするか考えるしかない。研究するしかない。それが、わたしの仕事のようである。