拝啓 会長殿

 会長は、いまは42歳。わたしのほうが20歳も年長になりますが、ジムも道場であり、会長は道場主。師礼をもって対させて頂きます。

 本年の年初に、会社そば、京橋駅そばに会長のジムができたのは、わたしにとってもラッキーでした。元柔道部員であり、少林寺拳法とボクシングを、はるかジュラ紀にしておりました。以後も、ゴルフをすすめる人もいましたが、あのような眠たいことはできませんでした。コナミにも通ったのですが、大胸筋の運動やら、背筋の強化やら、あのような間抜けた単調運動もつづけられませんでした。あまりにも退屈すぎました。かっての柔道の乱捕りやボクシングのスパーリングのような、アドレナリン全開、全身から汗が噴水のように飛び散るカタルシスは得られるべくもありませんでした。
 3月、近くの会社の前を通りかかったとき、そのガラスに近くにキックボクシングのジムがオープンするとのポスターが貼ってある。それを読んだとき、脳内で、ノートルダム寺院の鐘がカラーンカラーンと鳴り響いたのです。これやんか、これやんか、と。これや、これや、これや。
 すぐに入門。じつは年齢はすこし誤魔かしてあります。低めです。それでもジム最高齢者なのは、これはしかたがありません。
久しぶりにサンドバックに、全力で回し蹴りをする爽快感。足の甲にバンバンとくるバッグの反発。自分の足が風を切り空を舞っているのを見る愉快さ。最高です。これです。これです。何年もの間、これを求めていたのです。これは汗への魂の解放であり、風となる「癒し」です。
 また練習生もまだ少ないせいもありますが、リングでつねにミットを持っていただき、フォームの矯正をいただきながら、打つべし、打つべし、ジョー、明日のために打つのだ、ジョー、えぐるように打つのだ、打て、打つのだジョーの世界。心臓がドクドクと破裂寸前、肺臓は膨満し、全身から汗が吹き出し、頭頂からからも汗がしたたり落ち、目に入る。酸欠で世界がドクドク揺れ動いているのです。でも、最高っすよ。自分でも、日ごとにパンチのフォーム、キックのホームが美しくなるのが分かるっすよ。最高っすよ。
 会長は、昔はガルーダ・テツのリングネームで、キックボクシング界の戦士であり王者であらせられた。いま実に優しいコーチとして皆に接しておられる。柔道連盟の糞どもとは大違いの人格者であられる。入門した子供も女性も、会長のご人格をしたっている。もともと岡山のお人で、ほかにも6つのジムを持たれているのですね。テツ・ジムの日本制覇の一歩として大阪進出。まず関西制覇を目ざれているのですね。おおいに結構っすよ。国盗物語っすよ。まず、この京橋の新ジムの会員数100名達成からはじめてください。また、お聞きするところによと、3時からの練習ですので、それまでの時間をどう使うか、ジムの有効活用ができないか、お悩みですね。

 それについて、少し考えましたので愚見を述べさせていただきます。

 ①今の会長のビジネスモデルは、たとえば対象とする顧客層は、第一にプロ養成であり、第二にアマの練習生、メン、ボーイ、キッズですね。第三にキックボクシングでエクササイズをし、美容効果を期待するレディですね。
②それを会費制で行うことにより、ジムの経営を行う。それを原資にしてアマやプロの試合を主催する。

 すると、①のストックとフロー、集客数がすべてになりますが、どの程度期待できるのでしょうか。いまは三階ワンフロアですが、将来はこの四階建てのビル自体を買い取りたいとのご野心。それが達成できるでしょうか。他のジムは、どのような形でしょうか。そのモデルで経済的に成功した事例はあるのでしょうか。
ともかく、3時以降は、そのモデルで良いとして、ロスとなっている3時以前をどう活用するかが、会長のお悩みでしたね。おまかせください。老馬の知恵、老人ホーム業者の立場から、申しのべさせていただきます。つまり、キックボクシング・ジムの経営について、イノベーションの切り口があると考えているのです。
 じつは、ずっと考えておりましたが、新しい顧客層、キックボクシングの新しい社会的価値・効果に気づいたのです。それは精神運動療法施設として、心療内科のドクターと連携しがら、うつ病などの、体は健康であるが、心を病んでいる人の復活、再生施設としてジムの機能を社会に提供することです。

 うつ病に対する運動療法の治療および予防効果は、1980年代から数多くの研究報告があります。運動療法は、うつ病に対して、薬や認知療法、カウンセリング、作業療法などに勝るとも劣らない治療法なのです。また、運動に認知症の予防効果があることも近年多数報告されております。それどころか、薬が効かない人が、運動療法で改善したという報告もあります。
 米国などでは、うつ病患者に対して運動処方をするなどの運動療法を行っている病院もありますが、日本における精神科領域では、これまでは、本格的な運動療法を運動生理学にもとづいた科学的レベルで行うことは、なかなか行われずにきました。
これだけの効果が報告されている運動療法に、医学、科学に基づいて取り組む精神科・心療内科医療機関がなかったのは、なぜだったのでしょう? 年間自殺者数や長期休職者の増加など、「心の病」が大きな社会問題になっている現代なのにです。

 一つには、運動、スポーツをきちんと理解し、情熱をもって取り組む精神科医が少なかったこと。もう一つは、実際に運動をさせる方法論と施設がなかったことが、これまでの日本に本格的なレベルで運動療法を行う医療機関がなかった理由であると思われます。

 先週のジム練習後に、会長にWEBをお見せしましたが、東京に「広瀬クリニック新宿オーピー」という精神科クリニックがあります。なんと、このクリニックはキックボクシングの運動精神療法としての効果の大きさを認め、クリニック内に専門のジムをもっているのです。
このクリニックでは、キックボクシングを通して、一人一人に合わせた運動処方、運動療法を本格的なレベルで行っております。その詳細は、ホームページのYou Tube動画で、広瀬ドクターの講演「キックボクシングの効用について」で説明されています。薬物療法でどうにもならない患者が、運動療法で劇的に改善されることについて、広瀬ドクターも驚いています。だからこそ、クリニック内にキックボクシングのジムを多大な費用をかけてつくったのでしょう。その投資は報われそうな印象です。じつに素晴らしい取り組みです。

 さて、会長。あとは逆算です。広瀬ドクターは、精神医療に新しいイノベーションを創り上げようとしていますが、もう、ひらめきましたね。逆に、キックボクシング側としては、どうでしょうか。どう考えます?ドラッガーも「企業の本質は、マーケティングとイノベーションの二つに尽きる」といっておりますが。

 大阪にも精神科のある病院、心療内科クリニックは非常に多いのですが、院内にジムを持っている病院、クリニックなど有るはずもありません。そこで、会長とわがテツ・ジムの出番です。つまりですな、心療内科のドクターと連携し、新結合して、大阪においてキックボクシングを活用した精神運動療法システムを構築するのです。
 マーケットは、そうとうに広いと推測されます。心療内科とパイプを作るのです。産業医との連携も面白い。そして3時までの時間を、この新モデルでジム活用すれば、ずいぶんと経営、集客システムは安定しませんか。経営がカウンタブルになりますよ。二階建ての収益モデルが組み立てられますよ。この仕組みが、もし十分な需要を創造できるものなら、二階も四階も借りましょうよ。そして、ビルを買い取るのです。また、この仕組みを全国に展開して、テツビルとテツジムを全国につくるのです。会長は、キックボクシング界の平成の織田信長になるのです。あ、田岡会長でもかまいませんけど。全国を制覇するのです。

 いや面白いなあ。ひとりで面白がっていますが、そんなもんです。会長、この線でご健闘を。たぶん、うまくいきまっせ。もう少し考えを煮詰めておきます。テツジム全国制覇作戦。男の口から、全国制覇、日本制覇という言葉を聞くのは何十年ぶりです。ジムTシャツの神州男子のプリントは嘘ではないですね。それ、いい、面白い。面白いのが一番です。

 以上、僭越ながら、謹んで献策申し上げます。

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